2015年6月23日火曜日

【建設業の明日】海外市場を生き抜く

人口減少や少子高齢化を背景に、将来的に国内建設市場の先細りが懸念される中で、建設産業界は分野を問わず海外市場に踏み出す動きが鮮明になってきた。一定の国内需要が見込める2020年の東京五輪までに、海外の事業基盤を整えようと動き出している企業も少なくない。ゼネコン、建築設計事務所、建設コンサルタント、設備工事業、メーカーは、海外とどう向き合おうとしているか。戦略の違いを追った。画像は五洋建設が受注したシンガポールのセンカン総合病院新築工事の完成予想。

◆ゼネコン・重要な柱へ体制整備 国際部門強化、M&Aで収益拡大
 ゼネコンの海外受注が活況を呈している。海外建設協会によると、2014年度の会員企業による海外受注実績は最高値に迫る勢いで、アジアでの現地政府からの公共事業の受注増や北米での現地法人による建築受注の増加が全体をけん引している。長期的には国内建設市場の縮小が見込まれる中、各社は海外を収益構造拡大の重要な柱に位置付けおり、その体制整備の動きが強まっている。
 受注が好調なアジアの中でシンガポールでの大型工事の受注が相次いでおり、五洋建設は、15年3月期にシンガポール国内で史上最大規模の病院建築工事を959億円で単独受注するなど単体受注高の半分近くを海外で稼ぐ好成績を残した。
 この国際部門での事業拡大に対応し、管理体制の強化・明確化を図るため、同社では、ことし4月に国際事業本部を「国際土木本部」「国際建築本部」「国際管理本部」の3本部に改組し、うち国際土木本部、国際建築本部をシンガポールに置いた。
 14年以降、多くのゼネコンが機構改革による国際部門の強化に踏み切っており、ポスト五輪を見据えた海外事業のてこ入れを進めている。大手によるM&A(企業の合併・買収)も事業基盤拡大の一環で、大林組は米国ウィスコンシン州の建設会社「クレマー社」、鹿島はオーストラリアの準大手建設・開発会社「アイコン社」をそれぞれ買収した。
 両社は、今後も北米やオーストラリアなど先進国で積極的にM&Aを展開していく方針で、海外関係会社とのグループ連携により、海外事業の収益安定化を図っていく。

◆建築設計事務所・橋頭堡を築く 人材育成と現地雇用が不可欠

中国で手掛けた約280件のプロジェクトを紹介する日建設計の展示会。4月のオープニングセレモニーには中国企業や中国大使館から数多くの来賓が出席した
日建設計が東京都千代田区の本社ビルで、これまでに中国で手掛けた約280件のプロジェクトを紹介する展示会を開催している。4月のオープニングセレモニーには中国企業や中国大使館から数多くの来賓が出席した。同社では、中国のプロジェクトだけで全事業の10%を占めている。
 しかし、このように本格的な海外展開を進める建築設計事務所は少数派だ。国内需要が高まり人員的な余裕がない中で、各社は工夫を凝らした海外展開の橋頭堡づくりに取り組む。
 社員の目標を海外に向けようとしているのは、2013年5月にミャンマーに事務所を開設した山下設計だ。語学研修をほぼ必修化したほか、希望する社員は海外の建築設計事務所へ積極的に派遣している。「海外で戦うためには、海外の仕事のやり方を知る必要がある」と田中孝典社長は語る。考え方から海外に対応した人材育成を目指す。
 一方で、海外市場で生き残るためには現地法人が雇用した人材教育も不可欠だ。久米設計ではベトナムの現地法人「久米デザインアジア」に日本国内の設計業務を外注している。日本と同質の高い設計力を身に着けた人材はアジア市場進出の力になると見通す。
 海外に存在するビジネスは、従来の設計業務ばかりではない。安井建築設計事務所はパシフィックコンサルタンツ、三機工業と共同で次世代BEMSを活用した面的な省エネシステムの中国輸出を検討している。中国科学院と連携し、18年には最新の環境技術をまとめたシステムパッケージの販売ルート確立を進めている。

◆設備・カンボジアに熱視線 資本提携で現地企業の成長促す

大成温調がベトナム企業と資本提携。調印する山口社長(右。当時)
設備工事業では、いずれの企業も東南アジアへの進出という傾向は継続している。経済成長が今後も見込めるほか、比較的安価な労働力があるため、顧客である国内企業が進出すると見込むためだ。このところカンボジアへの進出意欲をみせる企業も増えてきている。
 新日本空調は、年内にもカンボジア支店を開設する。タイやベトナムに接する地域で工業団地が形成され、顧客の日本企業の進出も見込まれるため体制を整備する。いち早く進出した富士古河E&Cは、首都プノンペンにある拠点に加え、新たな支店の開設を模索。空調事業を中心に、事業の拡大を狙う。
 東南アジアでは2016年ごろに東南アジア経済共同体(AEC)が発足し、物流や人の流れが自由化される。これによる設備投資の増加なども各国で見込まれ、その需要を狙う動きもある。カンボジアへの進出も、人材の流動性が高まることで、進出する企業が人材を集めやすくなったり、建設工事そのものの人材確保もしやすいという判断も背景にありそうだ。
 進出する際に現地法人を設けて対応するケースが多いものの、現地企業と資本提携を結び、ノウハウを伝えていく方法を取る企業もある。大成温調はその1つで、必要最小限の日本人スタッフを派遣して技術面で連携しながら現地企業の付加価値を高め、その国や第3国の案件も円滑に対応できるようにする。一定の株式を取得し、企業価値を高めることで収益にするというモデルを根付かせたい考えでいる。13年にベトナムの現地企業と資本提携しており、これを皮切りに拡大できるか模索していく。

◆建設コンサル・将来見据え活発化 新たな挑戦で事業拡大

日本工営がコンサルティングサービスを行ったベトナム南北高速道路(ベトナム高速道路公社:VEC提供)
建設コンサルタント業界は、国土強靱化の取り組みやインフラの長寿命化、震災復興などを追い風として受注状況は好調だ。しかし、今後は復興需要が一区切りするなど、国内の公共市場の先細りは避けられず、余力のあるいまのうちから将来を見据えて、海外市場をにらんだ取り組みが目立っている。
 業界最大手の日本工営は、主要な国には現地法人をほぼ整備済みだ。中でも中南米工営は50億円規模の会社まで成長し、同地域のトップコンサルの一角を占めている。黒川紀章建築都市設計事務所の事業譲り受けは、海外での建築分野の補強を狙っている。
 パシフィックコンサルタンツは、15年9月期の受注ベースで海外は20億円を目標としている。日系企業が海外でプロジェクトを行う際のインフラ部分にかかわることにより、ビジネスチャンスが生まれるとの戦略を示している。
 建設技術研究所は、25年を目標年とする中長期ビジョン「CLAVIS(クラヴィス=鍵)2025」で、事業規模を600億円、このうち海外は100億円を目標としている。アジアを中心とする新興国、開発途上国の経済成長を取り込み、事業拡大を実現し、さらにその先の世界各地域への展開を目指している。
 ACKグループは、オリエンタルコンサルタンツから海外事業部門を分社化し、オリエンタルコンサルタンツグローバルを設立。昨年10月から事業を開始した。ODA(政府開発援助)やコンサル業務だけでなく、新たなグローバルビジネスにも挑戦し、事業を拡大したい考えだ。

◆メーカー・現地化と買収、異なる戦略 五輪でのPR効果

海外の展示会では温水洗浄便座が注目の的
「世界各国の人々にウォシュレット(温水洗浄便座)を知ってもらうチャンス」と、TOTOの喜多村円社長は2020年の東京五輪に強い期待を抱く。ウォシュレットの累計台数は3600万台だが、海外ではまだ100万台に過ぎない。五輪で体感してもらい、各国での需要を喚起させたい思いが根底にある。
 同社のように住宅設備や建材などメーカー各社の多くは、現地化を海外戦略の軸に置いているケースが多い。製造拠点を建設し、そこを物流拠点に周辺国に製品供給を進めながら、ゆくゆくは現地販売だけで事業を成立させることを最終目標に掲げている。「その国で独り立ちするまで10年はかかる」という喜多村社長は、17年度に海外売上高比率で24%を目指す。現在は22%で、着実に歩を進めている状況だ。
 対照的なのはLIXIL。11年にイタリアのペルマスティリーザを傘下に納め、13年に米国アメリカンスタンダードブランズ、14年に欧州グローエの買収を完了し、一気にグローバル企業への基盤を整えた。12年度に2000億円規模だった海外売上高は15年度に7000億円規模まで拡大する見通し。藤森義明社長は「20年度に海外売上高を最大1兆5000億円まで引き上げる」と一気に階段を駆け上がる。
 両社ともに海外を成長ドライバーに位置付けるが、ブランド戦略については考え方が大きく異なる。自社ブランドで地道に開拓するTOTOに対し、LIXILは既存ブランドを取り込み融合させるシナジー効果に力点を置く。戦略の違いは、今後の海外事業にどう影響を及ぼすか。今後の動向が注目される。
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