2015年6月19日金曜日

【建設産業のいま】職能職域の多様化 設計・建物全体をマネジメント コンサル・“川幅”広げ領域開

人口減少とそれに伴う新築需要の縮減という大きな課題を前に、これまでプロジェクトの「川上」分野を担ってきた建築設計事務所や建設コンサルタントに業務領域の変化が求められている。
 日建設計では、1月に就任した亀井忠夫社長が「ライフサイクルマネジメント」を掲げ、日建グループの連携体制を見直した。設計監理という業務を基盤としながら、発注者の立場に立った企画や建築の維持管理、プロパティマネジメントといった分野にまでグループ一丸となって取り組む体制を整えた。建設、維持、更新、解体という建物の一生(ライフサイクル)と向き合っていく方針だ。

 その背景にあるのは、技術者不足により設計者・施工者にフロントローディングを求めざるを得ない発注者の状況が少なからず関係している。日本設計の黒木正郎執行役員フェローは「設計者は発注者の出した要件にただ応えるだけではない」とし、「建築の専門家として発注者もまだ認識していない問題を発見し、解決策を提案する設計者が求められている」と分析する。設計者には従来の設計監理に加えて建物全体をマネジメントする能力が求められているとみる。
 官民の建築プロジェクトで普及の進むBIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)についても単なる設計手法を超えた活用が進もうとしている。これまで曲線や球体といった複雑なデザインを構築する手段としての活用が注目されてきたが、最近ではBIMで構築した建物のデータそのものをビジネスに利用し、企画、設計、施工、維持管理まで一貫し活用しようとする動きも本格化している。

◆安井建築設計事務所
 安井建築設計事務所では、BIMを活用し大手コンビニエンスストアの設計情報を取りまとめた。敷地・地域・利用者ニーズに応じて変化する店舗の設計パターンをデータとして管理し、毎月実施される細かな標準設計の改定を全国同時に共有できる体制を整えた。ファミリーレストランのようにパターン化した店舗設計全般にも応用できるため、将来的には、ここで構築したBIMデータにメーカー情報などを追加し、発注者が建築資材を直接発注することでコストの透明化や縮減を実現したい考えだ。
 常務執行役員マネジメントビジネス部門統括IPD本部担当の水川尚彦氏は「従来の設計の枠を取り払い、建物に応じて最適の生産方法を突き詰めていく。それぞれにふさわしいBIMの使い方を考え、まったく新しい建築生産システムを試みるべきだ」と力を込める。
 プロジェクトの川上から川下まで一気通貫でかかわろうとする建築設計事務所とは異なり、以前から官民連携した企画・維持管理を進めてきた建設コンサルタント各社では「川幅」そのものを拡大しようと新領域の開拓が進む。

◆ACKグループ
 オリエンタルコンサルタンツを中核とするACKグループでは「CSR(企業の社会的責任)版重点化プロジェクト」に着手し、社会貢献と事業活動を連動させた活動に取り組む。
 千葉県柏市と共同で進める交通安全の実証実験プロジェクトでは、同市の公用車200台にドライブレコーダーを取り付け、走行データをもとに危険個所の抽出・対策立案やヒヤリハットマップ作成に取り組む。位置、速度、加速度、時間などの情報を収集して効果的な道路施設の改良提案を行うだけでなく、事故削減のための運行診断レポート作成や安全講習会の開催により、ドライバーの意識改善や教育にも取り組む。野崎秀則社長は「市民とのかかわりが出てくることで、ACKグループとオリエンタルコンサルタンツを認知してもらえると同時に、国民の理解につながる」と語る。

◆復興デザイン研究体
 復建調査設計が東大に設置した産学官連携の復興デザイン研究体の活動も順調だ。岩手県宮古市のスマートコミュニティ太陽光発電事業のSPC(特別目的会社)や松山市のアーバンデザインに参画し、広島県府中町では「府中町スマートコミュニティ事業化検討委員会」を立ち上げ、核となる新電力事業について採算性が確保できることが確認されるなど成果を上げている。小田秀樹社長は「今後も研究体や異業種との連携により、地域マスタープランや継続的事業パッケージに関する業務にも積極的に参画し、コンサルタントとしての領域を広げていきたい」とした。
 長大でも、1月に鉄道・道路などの交通インフラ整備に関するコンサルティングサービスを主な業務とする日本交通技術から海外の鉄道建設に関する設計、施工監理、コンサルティングなど事業の一部を譲り受け、長期的な成長戦略を描く。
 建築設計事務所、建設コンサルタントともに国内需要が高く余力もあるいまは新領域に挑戦する貴重なチャンスだ。今後、将来の事業量の減少を見据えた異業種の連携、新領域の開拓がさらに進むことが見込まれている。
建設通信新聞の見本紙をご希望の方はこちら

0 コメント :

コメントを投稿