2015年6月16日火曜日

【てい談】国土交通省技監・徳山日出男×日本建設業連合会建築本部長・山内隆司×日本建設業連合会土木本部長・宮本洋一

生産性向上は輝く現場を取り戻すための最重要課題であり、その歩みは建設生産システムの改革にもつながっていく。社会資本ストックへの対応が強く求められている中で、建設産業は生産性向上とどのように向き合うべきか。国土交通省技監の徳山日出男、日本建設業連合会建築本部長の山内隆司(大成建設会長)、同土木本部長の宮本洋一(清水建設社長)の3氏に、建設産業が輝く現場に至るための処方箋について考えを聞いた。

--建設業の存在意義についてどうお考えですか

 徳山 存在意義とは大上段から言えば、時代が建設業に何を求めているかということだと思います。振り返れば過去、われわれが取り組んでいる公共事業や、建設産業が行うものづくり、さらには建設業自体が悪玉のように言われた時代が10年ぐらい続きました。そのような状況になったことについては反省すべき点もありますが、随分、この認識が変わってきたと私は感じています。12年連続で減り続けていた公共事業予算も、2015年度は2年連続でプラスとなり、下げ止まりました。これは裏を返せば、建設業に確かな役割があるということが、認識されてきたと受け止めることもできます。国の「安全」と「成長」の2つをけん引してもらわなければならないと認識され始めていると思います。
 「安全」という視点では、東日本大震災という未曾有の災害が最大の契機、そして中央自動車道笹子トンネル事故が社会インフラの老朽化問題を顕在化させました。特に老朽化の問題に関しては、整備されたインフラもきちんとメンテナンスを継続して行わなければ、自然災害が起きなくても崩壊する危険性があるという認識が世の中に広がりました。こうしたことが、建設産業はインフラを守る担い手であり、安全を守っているという認識につながったのではないかと思います。
 そして、安倍政権の経済政策であるアベノミクスが動き始め、「成長」をけん引するという役割も加わりました。17年4月にはもう一度、消費税を上げる時が来ます。このタイミングで日本経済に勢いがあるかどうか。それまでに日本経済が浮上し、全国の津々浦々にその恩恵が及んでいるかどうかの正念場になってきます。
 そもそも、建設産業が行っている土木と建築いずれもそうですが、建設という行為はフローの一時的な効果だけではなく、良いストック(資産)をつくることであり、それが国全体の生産性や安全に貢献することに加え、経済成長を引っ張り、雇用を生むことにつながっています。つまり、社会インフラと建設産業に関して、安全と成長という2つの役割が、あるいは存在意義が認められ、腰を据えて中長期を見据えた議論に踏み出す時代に入ったと言えるでしょう。
 山内 東日本大震災から1年後の12年3月に日建連では国交省住宅局と連携し、『日建連建築宣言』を発表しました。これは技術開発から計画・設計・施工、さらには維持管理に至るまで幅広く建築に携わる建設産業が、この大震災を機に何をすべきかを社会に向けて発信したものです。具体的な基本方針として「安全・安心の建築・街づくり」や「低炭素・循環型社会の構築」に貢献し、世界に誇れる「建築文化の創造」を掲げました。いま、われわれが置かれている立場を認識した上で官民が一体となり、共通のテーマを持って対応していこうというメッセージでもあります。
 東日本大震災を契機に改めて浮き彫りになったのは、既存建築物の約3分の1が81年の新耐震基準前のものであり、それがそのまま放置されることへの不安でした。耐震化率については、さまざまな施策や方策の実行によって、極めて顕著に向上しています。これは建設産業が、社会に理解していただけるような形で貢献している1つの事例でもあります。
 建設産業は衣・食・住のうち「住」を担っています。住というのは、安全な生活を実現するシェルターとしての機能も果たしています。この生活に欠かせない機能を維持するための重要なテーマが耐震化の推進であり、地震に対して安全であるということです。そして、災害が発生した際には機動力と実行力を発揮し、安全な生活の確保に向けて迅速に対応することも、建設産業の大切な社会的使命であり、いつ何時でも社会の要請に応えられるように、業界を挙げて努力をしていかなければいけません。
 宮本 山内建築本部長が強調したように、建設産業は人間が必要とする3大要素の1つである「住」をしっかりと維持していくためには欠かせない存在です。もともとは雨露をしのぐことが「住」の出発点だったかもしれませんが、人間の生活は文化の程度も含めて、時代とともに質が向上しました。それに伴って社会インフラという生活のための基盤も整備されてきて、現在では、その基盤がないと生活そのものが成り立たなくなってきたわけです。電気・ガス・水道などを始め社会インフラに対する認識は、あたかもあるのが当たり前のような感覚にすらなっています。
 一方で、笹子トンネルの天井板崩落事故を契機に、既存インフラに対してもしっかりと手を加え、維持・更新をきちんと行わなければいけないという認識がされるようになってきました。東日本大震災では、東北地方を縦断する基幹道路と基幹道路を横断するさまざまな道路を啓開し活用する「くしの歯作戦」が、人命救助と復旧などの迅速な対応につながりました。経済効率だけを考えると決してペイしないものでも、非常時には役に立つということが伝えられたことは、意義あることと思います。いままさに、世の中の認識は変わりつつあります。

◆新しい世界創出へ踏み出すチャンス

日本建設業連合会土木本部長・宮本洋一氏
 宮本 「コンクリートから人へ」という言葉も使われなくなり、国土交通省はいま、ストック効果の情報発信に力を注いでおられます。建設産業は社会基盤をしっかりと造り、国民の生活を守っています。目先の経済効率によってインフラ整備を評価するだけではなく、国民一人ひとりの安全・安心を守るといった社会基盤という観点からも、その必要性を評価すべきと考えています。いまはこうした考え方を社会に再認識してもらう良いチャンスでもあります。
 徳山 確かに指摘された通り、東日本大震災の時は極限の事態だったと思います。この非常時に、国や地域を守る仕事ができたのは建設産業だけだったわけです。これによって業界自身が目覚めたというか、失いかけていた自信を取り戻し、われわれが国を守っている、これからの国土を守っていくのだという意識にさせてくれたと感じています。また、この点については地域や住民、国民の皆さんにも気付きがあったと思いますし、その結果として建設産業に対する社会の意識はニュートラルまで戻ったように思います。その中で今後、われわれが何をしていかなければならないか、真剣に考えなければならないタイミングだと強く感じています。

--建設産業が存在意義と役割を自覚し、輝く現場を取り戻すためには生産性の向上が欠かせません

 徳山 安全と成長をけん引するのであれば、それを支える組織や体制を、ふさわしいものに変えていくことが重要です。その意味で日建連が2050年の建設産業のあるべき姿として『再生と進化に向けて-建設業の長期ビジョン-』を策定したのは、まさに時宜を得たことだと思います。生産性向上による35万人分の省人化が必要という、より具体的な目標を掲げた点も、実に分かりやすいと感じました。
 これについては、利益や安全と品質を確保し、誇れる産業、業態をつくっていくという姿勢が大事です。そういった意気込みで、現状に対して聖域なしに、どういう部分が生産性を上げられるのか、厳しく現状を見据え、目標全体も明確にしたら良いのではないかと思います。
 生産性向上の取り組みについては、個々にさまざまな工夫が見られます。例えば情報化施工もその1つですし、プレキャスト(PCa)化もそうですし、標準化や平準化も生産性を高め、効率を上げる手段です。ただ工事ごとにこうした取り組みを見てみると、例えば情報化施工を何カ所でやるかという取り組む個所数が目的関数になってしまい、本質が見失われている部分があると思います。つまり情報化施工を行うためには、設計からデジタル化しなければいけない。プロセス全体を通して改善すれば、どれほどの生産性が上げられるのか、事故の率も海外の状況や他業種と見比べながら、目的関数をしっかり置いて突き詰めることが必要になってきます。生産性向上の目標をしっかり定めて取り組んでいくため、腰を据えた議論をやっていきたいとも思っています。
 日建連もビジョンを打ち出し、そういう気持ちになってくださっていると、私は感じていますし、大変ありがたく思っています。まさにこれから先を長期的な視点から考える時が来たわけです。新しい世界に向かって、いよいよ踏み出すチャンスであると私自身も強く思っています。
 山内 生産性向上の視点からは、現場で行う作業工程をあらかじめ工場で生産しておくことで、大幅な効率化が実現できます。例えば、現在では当たり前になっているユニットバスは、前回(1964年)の東京五輪の際、建設需要が高まり労働者の不足、労務費の上昇が顕在化する中で誕生したものです。すべての部材を工場で製作し、現場では組み立てるだけという作業効率の高さが、工期短縮の下支えになりました。シールドトンネルもセグメントをPCa化することにより、生産効率が大幅に上がりました。これからも、こうしたハード面の技術開発に基づいた生産性の向上に取り組んでいかなくてはなりません。また、ICT(情報通信技術)を活用したソフト面の技術開発による作業効率化の推進にも注力すべきです。一方、生産性向上を考える際、人手不足をいかに補うかということも大きな課題です。労働力の確保という観点だけではなく、技能実習制度を活用して海外の研修生が日本の先端技術を学び、母国に戻って習得した技術を水平展開していただく、そうした考え方も必要であり、そのような努力を続けていくことが重要です。
 宮本 生産性向上にPCa化が欠かせないのは間違いありません。ただ一方で、単に工場生産を増やすだけで良いというわけではありません。特に土木については、徳山技監が指摘された標準化が重要なキーワードになります。建築は土木と比較してPCa化が進んでいます。これは、設計段階で柱や梁の断面をある程度同じに設定しているから、PCa化が成り立つわけです。言い換えると、建物単体の設計や効率化だけを考え、断面の寸法を少しずつ変えてしまうと、PCa化は成り立たないわけです。ですから土木分野でも、建築と同様に設計段階で標準化が図れないかと考えています。
 今年度の国交省各地方整備局などと日建連との意見交換会でも、生産性向上に関連して標準化は大きな話題になると思います。公共工事での標準化は、官民が一緒に取り組まないと実現しない部分です。また、施工段階だけではなく完成後の維持・管理、更新を見据えた書類や図面の整理も必要になるでしょうし、共通のものを増やすこと、つまり何事も標準化することが肝要です。
 BIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)やCIM(コンストラクション・インフォメーション・モデリング)を積極的に進めるのであれば、最初からデジタル情報を前提にものづくりを考え、成果物についてもデジタル情報で提出する試みが必要です。それが生産プロセスを通して実現すれば、生産効率は格段に高まるはずです。それに向けた第一歩を踏み出すべきです。
 徳山 標準化の問題は非常に大事なテーマです。土木や建築では、一品生産であることにロマンを持ち過ぎている面が時としてあるかもしれません。1つにこだわりを持って最適化することは良いことですが、一番重要なことは全体の最適化がなされているかどうかです。既に建築では標準化が先行しています。一番ややこしい台所、トイレ、風呂などはユニット化が普及していますが、土木はまだ進んでいません。

◆ストック・メンテ市場挑戦的な研究開発を

国土交通省技監・徳山日出男氏
 徳山 良い面、悪い面それぞれあると思いますが、PCa化や標準化が必要な部分はぜひ一緒にやらなければいけないと思います。トンネルも地山が違えば、交通に応じて断面も違ってくるというのは、会計検査上や設計上は最適かもしれないが、全体の生産性という側面から効率を考えれば、標準化した方が良い場合もあります。一品生産にロマンを感じてしまう気持ちはよく分かりますが、その気持ちを抑えることで生産性も変わってきます。
 PCa化と標準化は表裏一体です。情報化施工とBIM/CIMもそうです。また、太田昭宏国土交通大臣の指示で施工時期の平準化や工事書類の削減も出来るところから取り組みますが、大事なことは全体として、現状の生産性をあと何%引き上げるか、またはどの分野で行うかということを明確に決めた上で、取り組まないといけないということです。
 例えば、本当に情報化施工だけがんばろうという論の立て方をすると、では何カ所でやりますかという話だけが先行してしまいます。何カ所でやるという目標によって時には、無理して導入したり、現場で余計にお金をかけてしまったりと、不具合が生じてしまいます。情報化施工ではデジタルの設計図面に置き換え、電子基準点もわざわざつくる必要があるため、逆に生産性を落としてまで対処しなければいけない場合も出てきます。
 何のためにやるのか、どこまでやるのか、という全体のコントロールをしないと、うまく回りませんし、最適解は導き出せません。個々のメニューを突き詰めるだけではなく、全体としての最適な姿をマネジメントしなければなりません。こういったマネジメントについては、ぜひ取り組んでいきたいと考えています。

--建設産業も維持管理・修繕、更新などストック、メンテナンス市場に対し向き合わなければなりません

 徳山 最近の若い人たちの意識では、メンテナンスと言った時に、いかにも維持していくだけの地味な仕事という受け止め方をしているような気がしてなりません。一方でアメリカやヨーロッパのように、ストックへの対応を重視している国の公共予算は右肩上がりに増えています。ここ10年間で、日本は公共投資を減らしていますが、欧米では新設の道路はほとんどありませんが、既存道路の手入れをする時に、併せて再開発をしたり、ICT関連の装備を付けたり環境の改善をしたりと、すごくクリエーティブに、価値を創造するような仕事をしています。
 つまり、欧米の関係者は新設に劣らないような、あるいは新設よりもはるかに難しい、活用されているインフラを生かしながら、そこに全く新しい価値を付け加えているのです。これは実に興味深く、ストック・メンテナンス市場の仕事とは、やり甲斐があり面白く、知恵のいる仕事だということが言えます。
 しかも日本がその技術を磨けば、これからアジアの国々において続々とビジネスチャンスが生まれてくると思います。まさに新しいマーケットを創出できるチャンスでもあります。間違いなく到来するマーケットですから、もっとチャレンジングな研究開発を進めるべきですし、われわれも応援させていただきたい。その意味で建設産業には、もっと挑戦してほしいと思っています。

日本建設業連合会建築本部長・山内隆司
 山内 日本の建築はスクラップ・アンド・ビルドを繰り返してきましたが、これからは良いものをつくって、しっかりと手入れをしながら長く大切に使っていく時代に入ります。スクラップ・アンド・ビルドばかりでは、全体の生産性の側面からもロスが多くなり、国として資源の蓄積が伴わないと考えます。資源がたくさんあり、潤沢にそれらを消費できる間はスクラップ・アンド・ビルドで良いかもしれませんが、これからはそういうことが許されません。環境問題にも真摯に向き合い、建設産業全体として考え方を切り変える必要があります。
 建築物が長寿命化し、それに伴いリニューアル・メンテナンスの比重が高まる方向にシフトしていくことは間違いありません。この社会の変化に、建設産業がどう向き合っていくかが大変重要なのです。
 発注者においても、建築物の引き渡し後のファシリティ・マネジメント(FM)に対するニーズが高まりを見せています。建設業界全体として、新たなニーズに対応できるエンジニアを育成する必要性も大いにあると考えます。
 宮本 メンテナンスという言葉からは、どうしても維持管理というイメージを抱きがちですが、実際は維持・管理・更新と考えるべきです。例えば、首都高速道路で大規模更新事業が動き出したように、最終的には更新するわけです。更新とは事実上の新設です。つまり将来、インフラの新設がなくなるということではないと思います。日本の建築も木造系から、欧米のようにコンクリートや鉄骨主体の構造になり、長く使うという流れになっています。その点でも、更新も含めたメンテナンスの仕組みづくりに真剣に取り組んでいく必要があります。
 徳山技監が先ほど指摘されたように、公共投資が減っているのは日本だけです。災害の発生比率も世界の中で高いことを考えると、ある程度の公共投資を維持しなければ、国民の生活基盤を守ることはできません。
 国の予算という点から言えば、公共投資を減らして、社会保障を手厚くするような傾向があります。確かに社会保障も大切ですが、生活基盤づくりにも、もっと目を向ける必要があります。例えば、広島の豪雨災害で甚大な被害が発生したことなどを考えると、生活基盤の維持・安全確保と、社会保障のバランスを意識することが大切だということなのではないでしょうか。
 とかく、公共投資というと新設ありきで考えられがちですが、既にあるインフラストックについて、長く持たせて維持していく投資も重要であることを、われわれ建設産業界としても考えていかなくてはいけません。そのためには、建設時から将来の維持管理・更新のことを考えておくことも1つの方法です。さらに出来上がったインフラをどう長く利用するか、その両面から取り組むべきです。

--社会資本ストックへの対応を背景に、建設産業では世の中の意識を変える重要な時期に差し掛かっています

 徳山 ここ20年ぐらいを振り返ると、ジェットコースターのように激しい浮き沈みに直面してきました。「いい仕事をしているね」と評価される一方で、「悪玉だ」と揶揄(やゆ)されたりしてきましたが、ここに来て本当に潮目が変わったように感じます。不幸なことではありましたが、震災や老朽化による事故が、1つの気付きにもなっています。ただ一方で、われわれも自らのことを知ってもらう努力が足りなかったという大きな反省を持つべきだと思います。
 建設分野には、人のためになる仕事、喜ばれたいというような動機で人が集まっています。社会人として、良い仕事をしたいんだという思いは当然あるのでしょうが、良い仕事をしているから、皆が分かってくれるはずだという思いも持っているような気がします。
 「男は黙って……」ということでは、現在は理解してもらえない時代かもしれません。過剰な演出をする必要はありませんが、きっちりと伝える努力は今回を契機に、今後ずっと継続してやっていくべきだと思います。

◆社会認識の形成へ継続的に情報発信


 徳山 海外では、米国のオバマ大統領や各国首脳は必ず演説の中で、安全と競争力を守るために、老朽化したインフラを放置することはできないことを訴えています。インフラをきちんと付加価値をつけながら維持していく、あるいは新たに造ることが、国全体の経済の生産性も向上させ成長力を維持できるという趣旨の演説をします。一方、日本では公共事業の予算を減らすことに対して、拍手で迎えられた時代がありました。社会インフラに対するしっかりとした認識を持ってもらうためにも、われわれも正しい情報を発信する努力をしていかなければいけないと感じています。
 そういう意味で国交省では太田大臣の指示の下、社会インフラのストック効果をより発揮させようとしています。これは単なるプロジェクトではなく、省全体のムーブメントというか、運動論として取り組まなければなりません。アベノミクスは第2の矢として財政出動を行い、成長戦略である第3の矢によって、民間主導で経済成長していく流れを想定しています。これは一見すると、第3の矢として規制緩和を中心に行い、そこまでの間の民需中心の経済成長を喚起させる、つなぎ資金として第2の矢である財政出動があるように見えますが、そうではありません。インフラ整備はいわゆる成長の呼び水です。そのファンダメンタルズ(経済の基礎的条件)を整えるというのがわれわれの仕事であり、その点でも社会インフラのストック効果を認識していただくことが重要になってくると考えています。言い換えると、新設やメンテナンスなどの公共投資が、日本経済のファンダメンタルズを良くするために貢献しているということを理解してもらうことだと思います。
 しかし、社会インフラが必要ということばかりをアピールすると、誤解をされてしまう恐れもあります。財政の健全化も大事ですし、予算にも限りがあります。その前提で重点的に、どのように経済を引っ張っていくのかということで、焦点を絞り込む必要があると考えています。さらに言えば、まず既存のインフラをできる限り賢く使うという努力をし、そこで足りないものを造らせていただくというような姿勢が大切になってきます。
 例えば高速道路では、稼働率がどうなのかというような部分が重要になります。環状道路が続々開通し、非常に効果も出ています。中央環状の品川線が完成し、環状線の内側の交通量は5%の減少ですが、渋滞は5割も減少しました。これは5%の減少で5割減という高い効果があったと言えます。また、いまの環状道路の料金体系でも、ICTを使ってさらに効率的にさせていくことも可能です。いままでのつらい時代の経験を教訓にして、安定した国土経営を目指して動き出す必要があると考えます。これは建設産業全体を安定的に経営していくためにも本当に必須の要素だと思います。

--公共事業の評価指標として費用便益比率(B/C)がありますが、新たな指標が必要になってくるということでしょうか

 徳山 B/Cで計算しているのは一部の効果です。人間の力で波及効果のところを厳密に計算しようとしても、実際の答えを導き出すのは非常に困難であると思います。道路で言えば、渋滞解消の効果と、それによって時間が短縮して経済に波及効果が出る部分では、どうしてもいくらかダブってしまう部分が出てしまいます。なかなか人間の力で直接効果と間接効果、波及効果を全部ダブリなしに計算するということはできません。
 B/Cとは別に、違った側面からの分かりやすい説明も必要なのかもしれないと思います。例えば首都高の環状線もB/Cがどうなったという説明よりも、羽田までの時間がどうなったとか、都心の渋滞がどうなったかというリアルな話の方が、社会的には分かりやすい。その意味で、分かりやすさをもっと突き詰めていくことも必要かと思います。
 宮本 ストック効果をいかに分かりやすく示すかという点は、私もとても大事だと思います。さまざまな指標がありますが、具体的にどういう効果がどういう風に現れたかということを、もっと世の中にアピールしていく必要があります。徳山技監が言われた交通量が5%減っただけで渋滞が半分に減ったというような事例などは、もっと一般に広く伝えていく必要があると思います。
 例えば北陸新幹線も、建設中にはいろいろ指摘がありましたが、完成すると、みんな大歓迎でお客さんも増えていますし、途中駅の軽井沢に行くお客さんも増えたという話も聞きます。われわれ自身がそういう効果をいろいろな機会に紹介することや、マスメディアに取り上げてもらう努力をすることが必要なのかもしれません。
 改めて強調したいのは、一人ひとりの生活と経済は、社会インフラという基盤の上で成り立っているということです。このことを国民の皆さんが認識・理解できる世の中になっていくことが理想です。そのためには学校教育から、社会インフラの必要性を伝えていく努力も欠かせません。われわれ建設産業にとっては、一歩一歩しっかりとプロセスを踏むことが、結果的に広く国民のコンセンサスを得ていくことの近道になるのではないかと思います。 
 山内 建築の視点からストック効果について指摘させていただくと、少し違う側面があります。建築とは文明・文化度、あるいは経済力を1つの目に見える形で示しているものだと思います。日建連建築宣言に「世界に誇れる未来の建築文化の創造」を掲げていますが、特に訪日される海外の方々には、わが国の都市や建築を通じて、日本の文明・文化度の高さや経済力を実感していただけるものと確信しています。
 その点でも20年に開催される東京オリンピック・パラリンピックは絶好の機会です。思い起こせば、前回の東京五輪で世界中にインパクトを与えたのが新幹線でした。当時はそのまま英語で「Sinkansen」と伝えられるぐらい世界で大きな反響を呼びました。残念ながらリニア中央新幹線の開業は間に合いませんが、日本の技術力を世界にアピールする意味でも、ぜひリニア中央新幹線への試乗が実現できればと思います。日本が世界に誇れる新しいイノベーションの1つになることは間違いありません。
 これまで、われわれ建設業界は、若い方を始めとして広く社会にその魅力を訴えかける努力に欠けていた面も否定できません。建設産業は、東日本大震災の被災地復興の加速に加え、安全性と機能性を備えた街づくりや活力ある地域の実現に向けて果たすべき役割はますます大きく、また来たる東京オリンピック・パラリンピックを控えて、新たなレガシーの建設に携わる機会にも恵まれています。この機をとらえて、国内外の一人でも多くの方に、日本の建築物・社会インフラのストック効果を実感していただくことが、建設産業の意義を理解していただくことにつながります。建設産業に対する社会の認識を変えるため、高度な建設技術に基づくモノづくりの魅力を発信し、積極的に働きかける姿勢に転じる時であると考えています。
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