2015年5月20日水曜日

【対談】建設業振興基金理事長 内田俊一×全国建設業協会会長 近藤晴貞


政府のデフレ脱却と経済成長を実現するためのさまざまな経済・財政政策、改正公共工事品質確保促進法(品確法)を始めとする、いわゆる「担い手3法」の本格的運用を背景に、建設産業界は産業再生への道筋が見え始めてきた。そのなかで産業再生への道筋として避けては通れないのが、「担い手確保・育成」取り組みだ。「担い手確保・育成」への取り組みの現状と課題、さらには今後必要な視点について、建設業振興基金の内田俊一理事長と全国建設業協会の近藤晴貞会長による対談を通じて浮き彫りにする。

--人口減少による建設業界への影響、現状分析について

◆育成体制の崩壊と早期離職が問題
 内田 日本の人口が減り始めたのは4年前の2011年です。その年に国土交通省は国土審議会にさまざまな調査・推計をもとにまとめた資料として、日本は20世紀の100年間に人口を3倍近くまで増やしたが、21世紀中には3分の1まで減少するとする人口の長期的推移を提出し、注目を集めました。さらに細かくみると、未成年者(19歳以下)の人口は1980年から減少し始めていますから、実際には30年前から若年者の人口減少が始まっていたことになります。
 また、就業人口は97年から減り始めています。同時に、若い就業者の減少が始まっていますから、建設業界で若者が減り始めたのは20年前からということになります。
 ところが、この時期は、建設投資がどんどん落ち込み、若者の減少に対応するどころか採用を絞らざるを得ず、ダンピング受注などにより、処遇も悪化しています。また、若者の採用を手控えた結果、工業高校やハローワークなど若者を送り出してくれる機関とのパイプが詰まってしまいました。さらに少ない人数で工事をこなさざるを得ないため、現場で若者を育てるというOJTが十分に機能せず、また、相談相手となる年の近い先輩が会社にいなくなるなど、これまでの教育訓練の仕組みもなくなった。つまり、若い人を迎え入れて育てるという仕組みが、むしろ、この20年間でかなり傷んでしまったのです。これが1番目の影響です。
 2番目は、これからの影響についてです。建設業の55歳以上就労者の比率は35%を占めています。当然、この階層はスキルも高くその面でも大きな戦力です。ただ、この階層で最も若い55歳の人も15年たつと70歳になって辞めていくわけです。これから10年あるいは15年の間に35%を超えるスキルの高い層がごっそりといなくなってしまいます。それを埋めなければならないのですが、一方で人口減少が本格化していく。しかも若者を迎える仕組みもかなり傷んでいる。東京オリンピックの後の仕事量を心配する声があります。確かに不透明です。けれども、これからいよいよ本格化する人口減少の影響を考えると、いま心配しなければいけないのは仕事の増減ではなく、担い手そのものがいなくなるということではないかと思います。

全国建設業協会会長 近藤晴貞氏
 近藤 担い手の確保は、そもそもは企業経営者のマインドにすべてかかっていると思います。要は、経営を継続していこうという意欲、社会貢献、地域貢献を充実していこうという意欲、これが経営者に本当にあるかということに尽きます。今回、政府の方針で、安全・安心の確保や地域の活性化、国際競争力の強化などが打ち出されたことで、建設業経営者の経営マインドが明らかに変わってきたと思います。
 それぞれの施策について、全建でも議論していますが、確実に施行されるように、また、それがPDCA(計画・実行・評価・改善)サイクルの中で改善されるようにしていかなければいけません。従って、こうした政策にどう対応するかを十分考えていかないと、担い手確保も上滑りの議論で終わってしまうと思います。
 全建では毎年、全国を回って地域懇談会・ブロック会議を開き、都道府県建設業協会の皆さんと話をさせていただいています。その中で、少し前までは経営の継続という問題が話題の中心でしたが、昨年の会議では雇用をしたいという話も出てきました。ただ、担い手確保を進めるためには順番があると思います。
 まず広報、啓蒙があり、それから労働条件、労働環境の改善と順次解決されて、初めて長期を見据えた担い手の確保が可能になると思います。広報活動に関しては、既に各都道府県建設業協会が地域の実情に合わせた活動を行っています。

--なぜ担い手確保・育成が最重要課題なのでしょうか

◆経営と社員育成 親方意識の復権を
 内田 若者を雇用し育てていくという仕組みが壊れてしまっており、これから本格化する働き手の減少に備えるため、その再生を急がなければいけないということが1つの理由です。もう1つは若者の現状です。10年3月、35万人が高校を卒業しました。しかし、中途退学や卒業時点で就職が決まっていなかったり、就職したけど早期離職した人数は6割以上にのぼります。大学、専門学校も実は似た構図です。
 つまり、日本の若者たちは社会に出たけれども、しっかりと自分の人生を築いていくという基盤を持てずに、将来への希望を失いつつある状況だということです。こうした状況は日本という国の危機だと思います。建設業だからというよりも、企業経営者として若者たちの現在の状況を放置していてはいけないのではないかということを強調したいと思います。
 また、近藤会長が環境整備の必要性を指摘されました、建設業振興基金が着目したのは、教育訓練の環境であり、その充実が必要だということを強く主張してきました。その背景にあるのは、繰り返しになりますが、若者の早期離職です。高卒で4割以上、大卒でも3割が3年以内に辞めてしまう。ここを止めないと、若者が安心して選べる産業にならないだろうと思います。
 若者たちは、就職するときは、やりがいのある仕事で活躍したいともちろん思うわけです。ただ、よく考えると、仕事で活躍できるとか、面白くなるのは一人前になってからです。当然のことながら、その前には修練に明け暮れる下積みの期間もあるわけです。しかし、自分がどうしたら一人前になれるのか、自分を誰が一人前にしてくれるのかということが、現在の建設業ではまったく見えなくなっているのではないかと感じています。
 近藤会長の経営者マインドが変わったという話は非常に心強いと思います。このご指摘を聞きながらある県の協会長の話を思い出しました。協力会社をみていると、代(社長交代)が変わるたびに「親方」が社長になるというのです。どういうことですかと尋ねると、親方は経営者として仕事をとってきて給料を払う。一方で、若い職人を育てる責任も負っている。しかし、最近は社長として経営を一生懸命やろうと頑張るのだけれど、社員を育てるという責任を忘れているようだ。「親方意識」を復権しなければと最近は強く感じるとおっしゃっておられました。これも大切な経営者のマインドだと思います。
 近藤 技能労働者の教育については、内田理事長のご指摘のとおりだと思います。建設業界に入ってくる若者は、漠然としてですが、ものづくりが楽しいとか、地域貢献をしたいという思いをもっているわけです。では、入ってきた後どうするかですが、昔は徒弟制度じゃないですけど、親方がいて、その下で10年、15年と修業を積んで一人前になるという形でした。しかし現在こうした、きちんとした教育制度がないので、大半は現場に出して、OJT(職場内教育)という形で終わりです。
 近藤 そうすると、ものをつくる楽しみ、あるいは地域に貢献する楽しみをなかなか感じられないわけです。モチベーションの話だけではなくて、現実には、早く覚えなかったらきちんとしたものを任せられないからです。だから、早くものづくりの楽しみを味わえるようにしてあげるということはすごく大切です。その意味で、富士や三田(さんだ)といった教育訓練施設の活用を通じた教育訓練は必要だと思います。
 全建でもそういう施設を各県1つくらいつくりたいというような意見も出ています。ただ、講師の派遣など含め、単独で構えるというのは難しいでしょうし、効率も悪いので、いろいろな組織が一緒になって、同時に教育訓練をするということが大切ではないかと思います。

◆賃金水準の確保と保険加入を促進

建設業振興基金理事長 内田俊一氏
 内田 大事なのは、一人前になる道筋をきちんと教える、見えるようにするということだと思っています。そのためにやらなければいけないこと、言いかえれば課題は3つあると思います。
 1点目は、近藤会長のご指摘のように、教育訓練の仕組みを全国に整備していくことだと思います。そのために、建設産業担い手確保・育成コンソーシアムもできあがっています。ここで考えている取り組みは、総合工事業界、専門工事業界、それに教育機関、教育訓練施設、行政でネットワークをつくる。このネットワークの力で全国各地に教育訓練の仕組みをもった建設産業をつくっていくということです。
 2点目は、一人前となる道しるべとしての資格制度の活用です。振興基金が実施している資格として、2級施工管理技士があります。これは学科と実技があるわけですが、学科は高校在学中に受けられます。在学中に合格するということは、建設産業界に入る大きな動機付けになると思いますが、なかなか活用されていません。ですから、もっと受けやすいように、私たちも受験地を増やす取り組みを始めました。
 学科試験を受ける高校はたくさんありますが、合格率が二極化しています。合格率が高い高校は7割から9割が合格しますが、合格率が極端に低い高校もあります。その差は、施工管理を必須科目にするとか3年間の教育の中で、2級の学科試験合格を明確に目標としているかどうかで生まれてくるようです。2級施工管理技士の学科試験合格を目標にした取り組みを、建設業界として学校側に働きかけていく必要があります。
 3点目は、企業がきちんと利潤を上げていくための体制整備です。経営者には若い人たちを雇ったからには給料を払い続けてもらわなければなりません。改正品確法(公共工事品質確保促進法)が施行され、公共発注者が適正な利潤を確保した積算をしても、あくまでも積算の話です。受注した工事できちんと利益が上がるかどうかは、経営者、あるいは現場責任者の手腕です。
 そのためには現場責任者から経営者まで、各段階できちんと原価管理や予算管理ができる体制整備のほか、能力を向上させて確実に利益を上げていくことが必要だと思います。このことについては、振興基金としてもお手伝いをしたいと考えています。

--全建として担い手確保・育成について今後の取り組みは

 近藤 ことし2月、将来の地域建設産業の担い手確保・育成のための行動指針を策定して、全会に周知しました。その中でうたっているのは労働条件の改善です。当然、労働条件の改善の中には賃金水準の話があります。そこはきちんとしなければいけません。今後、賃金水準の確保をお願いしていく予定です。
 それから、労働条件の中のもう一つ大切な要素として社会保険の加入促進があります。全建は12年から社会保険加入促進計画を作成して着々と進めています。作成した当時は、まだまだ企業、あるいは経営者マインドと相反するような部分もあったのですが、ここにきて状況が変わり、きちんと進められるような情勢になってきました。特に賃金水準の確保については、しっかり対応していかなければならないことだと思います。
 あとは人材の確保・育成ですが育成は、先ほど内田理事長がお話をされたように、いろいろな機関と連携をとりながら、早期に一人前の技術者、あるいは技能労働者となれるような教育をきちんとした形で進めていけるようにしていかないといけないということで、全建の行動指針の中にも盛り込んでいます。

--建設産業界への期待とメッセージを

◆早期に一人前の技術者を育成

 内田 担い手確保・育成として、近藤会長が広報の必要性に言及されましたが、これまでの建設業界の取り組みはかなり功を奏していると思います。特に3・11以降、いろいろな災害があったこともあって、地域の安全を守る建設産業というイメージは定着してきたと思います。今後は、さらに地域の安全を守ると同時に、若者の一生を建設産業がしっかりと支えていくというメッセージをはっきりと発信する必要があると思います。
 冒頭にお話ししたように、日本の多くの若者が自分の将来に不安を抱えています。社会の中で、きちんとした足場がみつからない。だからこそ、若者たちの一生を支えるという建設産業のメッセージは、若者だけでなく、その親たちの心にも必ず届くはずです。
 やるべき課題ははっきりしていますから、いち早くどんどんやっていくことが、産業再生の第一歩ですし、他産業との競争に勝つために不可欠ではないかと思います。
 最後までつきまとう問題は仕事の繁閑です。対応として考えられるのは一つは多能工化ですし、もう一つは技能労働者を流動的に使える仕組みづくりです。平準化という問題を解決しなければ、若者を一生雇い続けるといっても壁にぶつかりかねません。今後の大きな課題として具体的な知恵を出していかなければならないと思います。
 近藤 われわれ全建は、国の安全・安心を守る地域の建設業を中心に活動しています。したがって、地域の活性化は大命題だと思います。そのうえでの話ですが、経営を継続しようという話も、いま少しずつ出てきています。でも、これは会社というかたまりの中での話です。会社を構成する社員や技能労働者などそれぞれの個の意識にまで浸透させていけるか、これが今後の企業、業界にとって取り組む課題であり、担い手確保・育成につながるものです。
 もう一つ、最大の課題は重層下請構造です。この問題を解決しなければ、技能労働者の確保や教育はできない。これから、この問題解決のためにどうのような仕組みがよいか、真剣に考える時期にきています。
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