2015年5月22日金曜日

【産業界の動向と展望】設計 組織事務所・人材育成のいま 多様化する業務と教育――どう両立させるか

 国内の新築需要縮小が予想される中で、建築設計事務所における人材教育にも変化が起こっている。プロジェクトの大規模化、複雑化、長期化が進む中で建築設計事務所の業務量は急増し、従来型の人材教育が困難な状況を迎えつつある。人材教育という新たな課題に建築設計事務所はどう向き合うのか、技術を継承、発展するために取り組みが進む。

◆日本設計
 日本設計の黒田渉執行役員コーポレート管理部長は、「都市開発・PM・CM・エネルギーなど建築設計事務所の職域が拡大している。設計・監理にこだわるのではなく、プロジェクト全体のマネジメント力を強化する取り組みが必要だ」と指摘する。14年9月には人材育成ロードマップを中心に、管理職への教育制度も強化した。環境・都市計画・建築・設備といった多分野のスペシャリストを横断的に調整する力がこれまで以上に求められているという。
 一方、同社では従来型のOJT教育の見直しに着手した。プロジェクトの長期化に伴って社員の経験に差が生じている現状を踏まえ、3年前から入社初年度の新入社員が必ず実施設計を経験できるよう環境を整えた。千鳥義典社長は「プロジェクトが複雑化し業務量が増加した結果として、ベテランは教育に時間が割けず若手は十分な経験を積めない状況だ。ただ実務を経験させる従来のOJTには限界がある」と語る。

◆山下設計
 山下設計もまた従来型のOJT教育を見直し、4月から東京本社に「OJT室」を設置した。新人研修を終えた意匠系新入社員はまずそこへ配属され、プロジェクトの企画、基本設計、実施設計といった建築全体にかかわる実務を約1年間にわたって経験する。
 藤田衛取締役常務執行役員本社長は「建築設計事務所の業務は多様化している。特に川上領域のマネジメント領域に広がっており、建築設計の基本的な力を身に着ける必要性は高まっている」とみる。設計者として成長する経験は現場でしか得られないとしながらも、その経験を体系化することで人材教育の効率化を狙う。

◆久米設計
 新築市場が縮小する中で、大手組織事務所にとって海外展開は不可避の状況だ。久米設計では、将来のアジア展開を見据えベトナムの現地法人「久米デザインアジア」と連携した教育制度の運用を14年の夏から開始した。日本国内の設計業務を久米デザインアジアへと外注し、現地法人の技術力を高めるとともに、久米設計本体の業務量を適正化しようとする試みだ。
 「今後、建築設計事務所は間違いなく海外へ進出しなければならない。その時に、日本と同質の高い設計力を身に着けた人材を現地で提供することがアジア市場に進出する際には大きな力になる」と強調する。外注を開始した当初は実施設計のドラフトなどが中心だったが、現在は基本設計業務なども担当しており、「ゆくゆくは年間数十件あるプロポーザル業務の一部を任せたい」という。
 技術を伝えるため日本から社員を派遣しているほか、久米デザインアジアで雇用した社員も久米設計で業務に携わっており、相互の教育、連携をさらに進めたい考えだ。

◆佐藤総合計画
 佐藤総合計画の関野宏行取締役常務執行役員デザイン・技術本部設計技術管理担当は、建築のニーズが多様化する状況において画一的に教育する難しさを指摘する。「現代は多様性を前提としながらも新しい秩序を構築しなければならない」とし、「どんな設計がふさわしいのか、一人ひとりの設計者が考え抜く必要がある」と語る。
 そのため、建築家としての能力の向上には個人の経験が重要になるという。ただ、「何をするべきなのか、努力の方向を伝える必要はある」とも。デザインレビューやトランスミッションレビューなど基本設計や実施設計などの節目に定期的なレビューを開催し、相互に価値観を確認して発展的に自分自身が考えられる場を設けている。
 「これから建築家の仕事は設計だけではなくなる。しかし、建築を考え抜くことが私たちの役割であり、建築設計事務所としての社会貢献であり、社員教育にもなるはずだ」と力を込める。
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