2015年5月27日水曜日

【産業界の動向と展望】総力取材レポート 地方業界の今 北関東・東関東・横浜

◆北関東 賃金実態調査の実施増加、独自基準の最低賃金も
 技能者の確保が建設業界の喫緊の課題となる中、北関東圏では、労働者の賃金確保を含めた環境整備に対し、意識を高める自治体が増加している。公共工事で元請企業が労働者に支払う賃金実態を調査する動きが加速。最低賃金を独自に設定し、支払われていない場合は契約解除や指名停止に踏み切る措置を設ける自治体も増えている。

 埼玉県草加市は、埼玉県で初めて独自に労働者に支払う最低賃金を定める「公契約条例」を制定し、2015年度に施行した。工事は1億5000万円以上を対象に、労働者に支払うべき最低賃金を定めている。県内では、越谷市と川越市も公契約条例の制定に向け、検討を進めている。
 公契約条例を制定せずに最低賃金の実態調査を実施する自治体も増加。埼玉県富士見市は「契約に係る労働環境の確認に関する要綱」に基づき、予定価格1億円以上の工事は元請企業に労働者配置計画書の提出を求めている。最低賃金を各職種ごとに設計労務単価(埼玉県)の8割以上に設定。違反した場合、契約解除や指名停止措置の措置を可能にした。
 新座市は4月、予定価格5000万円以上の工事と同1000万円以上の委託業務で賃金の支払い状況や休日の取得などの労働環境調査を開始した。労働環境把握チェックシートを活用し、不適切と判断すれば改善指導を行う。
 埼玉県朝霞市は、設計金額2000万円以上の工事、同1000万円以上の委託業務を対象に、賃金支払い状況を調査している。従事するすべての労働者に支払った賃金を明記する「労働者賃金支払報告書」の提出を元請けに求め、この調査をもとに労働者に支払うべき適正賃金の基準づくりを行う方針だ。
 前橋市は、公契約基本条例に基づき、2500万円以上の建設工事を対象に労働環境報告書の提出を求め、労働者に支払われている最低賃金を把握。不適切な場合は改善報告書の提出を求め、履行しない場合は指名停止措置の対策を講じられるとした。
 長野県は、労働者への適正賃金支払いを評価する総合評価方式の試行を検討。工事などで賃金の実態調査を進めており、総合評価の制度設計の基礎資料として活用する。早期に試行に結びつける。

◆東関東 常勤女性職員25%で加点 3法改正の浸透に不安感

 東関東地域では、茨城県や千葉県を中心に担い手3法改正に伴う制度改正が進む。
 茨城県は、6月から適用する2015・16年度建設工事請負業者入札参加資格審査(格付け)基準で、技術者の雇用に対する配点を高めたほか、常勤職員の25%以上が女性である場合に加点する項目を新設。また、格付けがない業種の一般競争入札を同月以降に公告する場合、社会保険などに加入していることを参加資格の条件とした。
 これに対し茨城県建設業協会は、県が具体的な改正を示していることを評価する一方で「市町村の動きがまだ見えない」と市町村の対応に懸念を示す。
 また、独自の動きとしては、県土木部営繕課が発注する耐震補強工事などで不調が多かったことから14年2月、3法改正に先立ち同部、県建築士事務所協会、建協の3者で意見交換の場を設置。実際に不調になった案件を対象に課題を洗い出し、その中で建協は「現場の工程に合わせた共通仮設費を積算をするよう」要望した。
 県は、検討結果を生かして14年度に入札した結果、不調・不落が大幅に減るなど成果が出ている。
 一方、千葉県は、1億円以上となっていた建設工事の予定価格の事後公表対象を4月以降は5000万円以上に拡大したほか、社会保険未加入業者を入札から排除した。
 千葉県建設業協会は、制度改正があっても3法改正の趣旨を踏まえた対応が「国や県、市町村の末端の監督員まで浸透しているかが心配だ」と指摘。ただ一方で「まだその動きが見えてこない」と指摘する最低制限価格や調査基準価格の引き上げに期待を寄せている。

◆横浜 安定した受注環境の整備望む 技術者育成へ長期的な展望を
 近年、建設業の雇用環境などの改善に向けて、神奈川県内の自治体で入札・契約制度などの見直しが相次いでいる。2012年7月、神奈川県は国と歩調を合わせ社会保険等未加入者に対する経営事項審査の減点措置を開始。同時期に横浜市も13・14年度入札参加資格審査申請において社会保険の加入を登録要件に設定すると発表し、県内自治体の取り組みが動き出した。
 同県は、公共事業労務費調査(12年10月調査)において47都道府県の中で、沖縄、東京に次いで社会保険加入率が低かったこともあり、横須賀市が14年度から未加入者に対して工事成績点(評価項目)の1つ「施工体制」を10点減点するなど市町村独自の取り組みも広がった。現在では神奈川県や政令指定都市を始め、海老名市などで社会保険等未加入者の排除が進んでいる。
 こうした雇用環境の改善とともに制度面の改善も顕著になってきた。神奈川県は14年度から指名競争入札の運用再開となる「いのち貢献度指名競争入札」の試行を開始。災害対応や若手技術者の育成などの実績をより重視した業者選定に取り組み始めた。
 また、入札環境も横浜市と川崎市が14年6月に最低制限価格と調査基準価格の上限を95%に設定。神奈川県は15年度から最低制限価格の上限拘束を撤廃するなど、実態に即した環境へと変わりつつある。
 こうした自治体の動き、さらに担い手3法の運用開始などの変化を地元建設業界は歓迎している。担い手3法には受注者の「適正な利潤」の確保が盛り込まれ、これまでのダンピング受注(過度な安値受注)を抜け出し、健全な経営環境に立ち戻れることへの期待感は高まっている。
 ただ社会保険への加入を始め、技術者の育成、若年労働者の確保といった課題に対しては、単なる入札・契約制度の改正だけではなく、長期的な展望が見定められる自治体の環境整備を望む声も大きい。将来にわたる発注の動向が提示され、安定的に受注できる環境の整備がなければ「人を育てられない」というのが理由だ。一部の企業に受注が偏るような公共事業の発注方式ではなく、きちんと経営し、技術力を高めるように努力している企業が適正な価格で受注できる一層の環境改善に期待を寄せている。
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