2015年5月26日火曜日

【産業界の動向と展望】2つの雇用調整制度が人手不足を補完 職人サラリーマン誕生

建設業にとって、生産システムが細分化されていることと、受注産業ゆえに業務の繁閑期が避けられないことが、生産工程を実際に担う専門工事業の職人確保を難しくさせる一方、重層構造拡大を招いた。発注時期だけでなく受注案件の引き渡し時期も重なることが、職種ごとの作業工程の集中と業務閑散期を招いていたことが、下請け次数増加につながった。裏返せば、重層構造拡大は建設生産システムの雇用調整的役割が高まった裏返しとも言える。ただ拡大した重層構造のままでは、職人の処遇改善は進まない。そのため、合法的な雇用調整制度である「労働者供給事業」と「建設業務労働者就業機会確保事業」の活用に注目が集まり始めている。

◆労働者供給事業 雇用期間収入、品質確保も担保
 製造業を中心に業務繁閑期の雇用調整弁的役割を担っているのが、「労働者派遣」制度だ。ただ建設業の場合、労働者派遣法で、建設業務の労働者派遣は禁止されている。
 そのなか建設業で労働力需給調整システムとして合法的に認められているのが、厚労相から許可を受けた事業主団体の加盟企業同士が仕事量に応じて職人を融通しあう「建設業務労働者就業機会確保事業」と、労働者派遣と枠組みはほぼ同じだが唯一、労働組合だけに認められている「労働者供給事業」の2制度しかない。
 このうち労働者供給事業は、労働組合と人材の供給先(元請けなど企業)と供給契約を締結し、労働組合に加盟する職人(組合員)は供給先と一定期間の雇用関係を結び、供給先は組合加盟職人と指揮命令関係を持つ仕組み。請負契約を結びながら現場作業で実際には指揮命令関係にある、事実上の偽装請負ではないことが大きなポイントだ。
 全国建設労働組合総連合(全建総連)傘下で厚労省から労働者供給事業の認可を受けた各地区の労働組合は事実上、躯体から仕上げまで各工程の職人(組合員)を抱えニーズに応じて供給する「職人プール」の役割となる。また、職人にとっては、契約上はリスクも大きい請負ではなく供給先企業と一定期間雇用される、「職人サラリーマン」になることでその期間の収入は担保される。さらに、供給先にとっては、形式上でも請負契約と違って、出来上がりなどについてダメ出しができることで品質確保が担保できるとともに、業務の繁閑期に応じた合法的な雇用調整ができるのがメリットだ。
 これまでハウスメーカーが、地域の全建総連傘下の組合と労働供給事業の契約を締結した例として、埼玉と千葉の2県でスタートしている。

◆建設業務労働者就業機会確保事業 合法的な「職人応援」現実化
 労働者派遣が法律で禁止されている建設業務について、企業が抱える職人を、他企業の現場に派遣することが唯一認められているのが、厚生労働省の「建設業務労働者就業機会確保事業」。業界慣行として行われている「職人の応援」を合法的に制度化したもので、建設業の労働力需給調整システムの1つだ。
 具体的には、事業主が受注量に応じ一時的に余剰となった労働者(職人)を、同一の事業主団体に属する他の事業主へ一時的に送り出すことで、雇用を維持するとともに、雇用の安定を図るのが目的。ただ同事業を使うためには、雇用改善や安定などの目標や実施時期などを定めた実施計画策定が事業主団体に義務付けられているほか、計画の認定や、構成事業主の許可を受ける必要がある。また、送り出し人数も常用労働者の5割以下、送り出し期間も所定労働日数の5割以下といった要件も定めれている。
 現在、建設業務労働者就業機会確保事業として認定されているのは、全国基礎工業協同組合連合会、日本塗装工業会、沖縄県建設業協会、大阪府建団連、みやぎ建設総合センター、日本海上起重技術協会の計6団体の事業で、労働者の融通は地域限定にとどまっている。
 ただこのほかの業種でも、偽装請負につながりかねない、「職人応援」の慣行あり方を検討する専門工事業団体もあり、制度化された「職人応援」を拡大するための制度運用の見直しなどを求める声が今後強まる可能性もある。
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